英語史研究会第4回大会発表要旨(発表順)

 

 

英訳聖書のコーパスにみられるforbid構文の発達

家入葉子(神戸市外国語大学)

 現代英語では、forbidは不定詞構文を取るのがもっとも一般的であり、このほかに 少数ながら動名詞を使った構文も確認される。一方forbidがthat節を取るのは、「God forbid . . . 」のような特殊な構文に限定されるようになった。本発表では、forbidという語彙そのものを多数含む英訳聖書のコーパス、The Bible in Englishを利用して、歴史的には決して少なくないthat節が減少していく過程を明らかにする。また、forbidのような、一般に頻度の低い語彙の調査にコーパスの利用が有効であることも示したい。

 

チョーサーにおける不定詞付き対格構文について

隈元貞広(熊本大学)

 14世紀以降急激に使用頻度が高くなり、同時にその用法も多様になる、とMustanoja (1960)が述べている不定詞付き対格構文について、同世紀の後半に 位置するチョーサーの場合を観察する。Kenyon (1909) はチョーサーにおいてこの構文をとる動詞を列挙し、付随する不定詞 bare inf.、to-inf.、for to-inf. となる場合の出現箇所をいくつか示しているが概説的に終わっており、その頻度、用法ともにさらに詳細に観察する必要がある。中英語期の傾向を背景におきながら、Kenyon (1909)をさらに発展させる形で、チョーサー のこの構文の一面を提示したい。

 

19世紀アメリカ英語におけるNeedとDare

東 真千子(九州大学大学院)

 needとdareには原形不定詞を伴う助動詞用法の他に、to不定詞を伴う本動詞用法がある。そのため、現代英語の助動詞を大きく第一助動詞、法助動詞、周辺的法助動詞と3つに分けた場合、周辺的法助動詞に分類される。歴史的に見ると、needとdareはそれぞれ異なる発達過程を経ている。OEにおいて、needは本動詞、dareは助動詞であった。それが16世紀になるとneedには助動詞用法が、dareには本動詞用法が加わり、それぞれ本動詞用法と助動詞用法の両用法が共存することになる。今日では、need、dare共に本動詞用法の方が助動詞用法より一般的であり、助動詞用法は否定文、疑問文に限られている。しかし、両用法が混交した形も見られる。例えば‘You do not need come again.’/‘He dare to tell what he knows.’である。そこで本発表では、19世紀アメリカ英語に見られるneedとdareを取り上げ、need、dareそれぞれが本動詞用法、助動詞用法の狭間でどう揺れ動いているのか 、混交形に着目しつつ、歴史的観点から考察したいと思う。

 

"He gave it me" の解釈に関して−現代英国小説 Darkness Visible (1979)中の一文から−

宮原一成(山口大学)

 過日出版された『可視の闇』(ウィリアム・ゴールディング著)の翻訳作業に携わった折、登場人物の一人が口にする "He gave it me" という一文が気に掛かった授与動詞の後に、二つの人称代名詞が二重目的語として続くとき、「間接目的語→直接目的語」の語順にならないことがあるのは、イギリス英語の一特徴として知られている。特に、直接目的語が メit" である場合は、「直接目的語→間接目的語」の語順になることも少なくないと言われている。

 しかし、小説中のこの箇所については、共訳者の間で議論した末、"it" を間接目的語と見ることに決め、「あの人はそれに僕を差し出したのさ」という訳をあえて採ることした。今回の発表では、その選択に至った経緯と判断材料を報告し、英語史研究会会員の皆さんに "give it me" 型の文の解釈に関する話題を提供できれば、と考えている。