英語史研究会第25回大会発表要旨 |
The Temple of Glas における改変について 足立峻一(駒澤大学大学院博士課程) 15世紀前半に活躍した Lydgate の作品の一つにThe Temple of Glas という恋愛寓意詩の夢物語がある。完全な状態で現存する写本は7つあるが、Shick (1891) を基に、Norton-Smith (1958) は、この作品を改変や削除の状況に応じてfirst、intermediate、final の3つの version に分類している。そしてその改変はいずれも Lydgate 自身によるものであるとしている。 Seaton (1961)も改変について指摘をしているが、その順番については明言を避けている。両者とも改変が作品の内容にどのような影響をもたらしているのかについては詳細に論じていない。本発表では3つの version の相違点を再検討すると共に、その相違点が話の内容にどのような変化をもたらしたのかを論じる。そして改変をするにあたって、筆者の意図することは何であったのかを考察する。 英語語源辞典における梵語の記載方法について 吉田雅之(早稲田大学) 日本人向けの英語語源辞典の代表格である研究社『英語語源辞典』には、欧米の語源辞典にはない聖書やシェイクスピアに関する語誌が載っており、英語を学ぶ日本人にとっては親しみ深いものになっている。印欧祖語に関しても、何らかの工夫ができるのではないだろうか。歴史比較言語学が William Jones によるギリシア語・ラテン語・梵語(サンスクリット語)の比較をきっかけに始まったことは周知の事実であるが、欧米人と異なり、我々日本人にとっては、むしろ梵語の方が身近な場合がある。本発表では梵語を音写または翻訳して出来た「仏教漢語」に焦点を当て、日本人にとって身近な漢語が、実はラテン・ギリシア語起源の英単語と密接に結びつく場合があることを示しつつ、英語語源辞典と歴史比較言語学を日本人がより身近に感じられるような記載方法を考えていきたい。実例は可能な範囲で身近な仏典から抜き出して説明する。 身分・役割を表す名詞派生動詞の統語・意味の変遷 三浦あゆみ(関西外国語大学) 本発表では、Levin (1993) において orphan verbs および captain verbs と称される、身分や役割を表す名詞からゼロ派生した動詞の歴史をたどる。orphan verbs は、‘make (someone) an orphan’ のように、元の名詞が意味的に make の目的格補語となる動詞群を指し、captain verbs は、‘act as a captain for/toward’ のように、元の名詞が意味的に act の主格補語にあたる動詞群を指す。但し、OED Online を用いた発表者の予備調査において、orphan verb と captain verb 両方の意味を持つ動詞が14世紀以降継続して観察され、両動詞群の境界が必ずしも明確ではないことが分かった。同調査においてはまた、orphan verbs と captain verbs の双方にとって16世紀が転換期であり、統語面においても両者を区別する新たな特徴が現れることが確認された。 以上の結果を踏まえ、本発表では、先行研究を元に両動詞群のリストを拡大し、再びOED Online、および一部の動詞には近代英語期のコーパスを用いて、古英語期から20世紀に至るまでの orphan verbs と captain verbs の統語・意味的特徴の変遷を調査し、現代英語における動詞群としてのまとまりがどの程度まで認められるかについて考察したい。 後期中英語から初期近代英語の書簡における動詞 wit と know の交替 今井康貴(京都大学大学院) : 「知っている」という意味領域の主要な動詞である、wit と know について、Rissanen (1993) は14世紀に交替が起こったと主張する。また、wit の衰退の過程については、書簡でよく用いられていた表現である please (it) you to wit などの定型表現に使用が制限されていったということが指摘されている (Tani 2013)。本発表では、Parsed Corpus of Early English Correspondence (PCEEC)を用いて、後期中英語から初期近代英語にかけての書簡という特定のジャンルの中での wit の用法について競合する動詞 know と比較しながら議論する。特に補文に注目することで、両動詞の用法の違いについての考察を試みる。 シェイクスピアの劇作品における不定詞関係詞節――先行詞が不定詞節中で副詞的付加詞の一部として機能する場合 水野政勝 (Honorary Research Fellow, School of English Language and Linguistics, Sheffield University) 上記タイプの副詞的先行詞は(I) 先行詞 (名詞) …前置詞+関係代名詞+To-不定詞 (例:in which to…) に見られる。一方、(I)に相当する名詞を(後位)修飾する不定詞節として (II) 名詞…To-不定詞…前置詞 (例:to…in) (III) 名詞…To-不定詞…ゼロ前置詞 (省略された前置詞) がある。Quirk(1985:1254ff.) は (I)〜(III) に対応する定形節の例をあげている。(‘…was Thursday’ に生じる例として、the day on which she arrived; the day she arrived on; the day she arrived をあげる。) そこで、本発表では上記 (I)〜(III) に加えて、16世紀に特に普通であった「前置詞+Which」と交替的に使われた「Where+前置詞」 (Traugott 1972:155) を使う不定詞関係詞節、(IV) 先行詞…Where+前置詞+To-不定詞、の4つの型を(i)統語的、(ii) 意味的、(iii) 文体的にシェイクスピアの劇作品に調査した。(i) 先行詞(名詞)の主節中における機能 (主語 (S)、目的語 (O)、主格補語 (SC)、目的補語 (OC)、前置詞の目的語 (PO)、There構文 (THERE)、文の断片的要素(NS) (Quirk1985: 838))、不定詞節中の動詞のタイプ (自動詞か他動詞)、For-NPの主語をとるか、(ii) 先行詞 (名詞)を時 (TEMPORAL)、場所 (LOCATIVE)、様態 (MANNER)、道具 (INSTRUMENT) に大きく分け、(iii) 韻文 (v) か散文 (p) の違いで分ける (Spevack 1973)。先行詞が時や場所の典型的な名詞 time、place では (III) が多い一方、(II) も見られた。前置詞を前置する型 (I) と (IV) は不定詞関係詞節に関する限り一般的ではなかった。 |
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