英語史研究会第21回大会発表要旨 |
The English and Norwegian V-ing forms and the Welsh VN 樋口万里子 (九州工業大学) 古来、英語と北ゲルマン諸語は密接な関係にあり、例えば、現代ノルウェー語の V-ing/ -ende 形は、古英語の V-ing/ -ende 形と同形というだけでなく、意味的・統語的特性も類似性が高い。ノルウェー語の V-ing は、現代でも完全に名詞であり、V-ende形も本質的に形容詞である。一方、中英語後期から近代初期にかけて、英語でだけ V-ing が動詞性も兼ね備えた動名詞として発達し始め、英語においてのみ現在分詞の接尾辞が -ende から -ing へと変貌し、英語だけで、進行形が現代では文法体系の中核を担うまでに発展し始めた。その要因は、相互に関係しているが、特に Welsh の VN、特に前置詞 yn+VN構文の特性を重ね合わせてみることにより明瞭となる。本発表では、現代ノルウェー語と古英語から現代までの V-ing/ -ende形の事例を比較しつつ、近年注目を浴びている Language Contact からの知見やDNA鑑定及び考古学研究を背景に、Insular Celtic からの英語への影響を鑑み、現代英語の V-ing のあり方には、特に Welshの (yn)+VN が深く関わっている可能性を示したい。 John Trevisa の翻訳によるPolychronicon の言語――MS Cotton Tiberius D. VII とキャクストン版の比較 家入葉子 (京都大学) 1986年のA Linguistic Atlas of Late Mediaeval English (= LALME) の刊行以来、中英語の方言を特定する際には、LALME を使用するのが通例となっている。すでに LALME は、中英語作品の校訂で欠かすことのできない言語分析を補助する資料として定着しているということができる。 一方、方言の特定とともに重要なのが年代の特定である。こちらについては、写字生が使用している書体や写本の形状など、言語外要素が判断の基準として使用されることが多く、言語そのものから年代を特定するのは容易な作業ではない。Damian-Grint (1996) は、中世の作品全般について、言語的な特徴から年代を推定する際には、たとえばある50年間に絞り込むことさえ、必ずしも容易でない、と述べている。 本発表では、年代を絞り込むための言語的尺度を構築することを目標に、Polychronicon (Book VI) の二つの異なる版の言語を分析する。テキストが伝播する過程で、何が変化し、何が変化しにくいかを探ることで、尺度として使用することができるものとそうでないものを振り分ける試みを行う。 ウィクリフ派英訳聖書初期訳の成立過程と存在意義 吉田雅之(早稲田大学) 14世紀末に作られたウィクリフ派英訳聖書には初期訳 (early version) と後期訳 (later version) が存在する。前者はラテン語訳聖書 Vulgate の直訳、後者は意訳と分類できる。両者はあまり間をおかずに作成されており、少なくて数年、多くても10年程度の interval が想定されている。どちらの写本も相当な数が残されているので、後者を単純に前者の「改訂版」とみなすのは不自然であり、それぞれの存在価値があったものと思われる。既に初期訳・後期訳間における構文上の相違点は Yonekura (1985) で詳細に検討されているので、本発表では単語レベルで確認できる翻訳上の違いを検討し、また通常の「直訳と意訳」という分類では説明しきれない翻訳箇所が両者間のごく一部に存在することを提示しつつ、両者、特に初期訳の存在意義がどのあたりにあったのかを、考えてみたい。 let there be 構文に関する一考察――Oxford English Dictionary の引用文の分析から 家口美智子(摂南大学) 言うまでもなく、Let there be light. は聖書の冒頭部分に出てくる有名な一節であり、このフレーズが人々に定着している一方、let there be 構文は現代英語でも使われている。この let there be 構文に関しては、日本の辞書では there を目的語と考える説明が一部あるだけで、詳しくは説明されていない。OED を除くイギリスやアメリカで発行された英英辞書では一般的に記述すらない。OED が短くあいまいに「助動詞のような機能」という説明をしているが、本研究は OED のあいまいな説明を本構文の歴史的発展の見地からまた現代英語における使われ方からわかりやすく明らかにする。また似たような表現を OED から探し、英語の持つ構文について考察する。 19世紀イギリス小説における二人称代名詞について 中山匡美(東京大学大学院博士課程) 二人称代名詞 thouとye/you については通時的にも共時的にも多くの研究がなされてきた。初期近代英語においては、Shakespeare の戯曲を中心に、話し手と聞き手の社会的地位や話者のさまざまな感情によって thou と ye/you がいかに選択されるかについて論じられてきた。17世紀以降、二人称単数は you が一般的となり thou は有標となるが、後期近代英語において初期近代英語で見られたthouの用法はどの程度持続あるいは変化しているのであろうか。本発表では、19世紀の小説における thou を、言語使用域、話し手と聞き手の関係、話者の心理などの点から見てみたいと思う。また、この時代には、歴史的には二人称複数主格であった ye も thou と同じく有標となっている。Ye についてもその用いられ方に触れることができればと思う。 |
英語史研究会のトップページ |