新刊紹介 (『英語史研究会会報』 2006年~2016年)


新刊紹介(1) 

2006年4月 8日 (土)

Yoshitaka Kozuka, A Linguistic Study of the Authorship of the West Saxon Gospels (大阪大学出版会, 2006年2月刊行, xv + 188pp.)

小塚良孝(大阪大学、大阪工業大学、大阪外国語大学非常勤講師)

 本年2月に、古英語訳福音書 West Saxon Gospels の翻訳者に関する小著を大阪大学出版会より出版致しました。僭越ながら、この場をお借りして紹介させて頂きます。
 本書の目的は、West Saxon Gospels の翻訳者が何人だったのかという点を、言語の分析に基づいて考察することです。この問題については、これまで単独説と複数説を唱える研究がそれぞれ幾つかありましたが、どちらの説も論拠不十分で確立されるには至っていません。
  本書は五章から成ります。第一章では、先行研究の概観などを行います。第二章では、古英語文献の Authorship を言語から推定する際の方法論上の注意点を論じるとともに、本研究の方法論を示します。第三、第四章が本論となります。ここでは統語法(第三章)と語彙 (第四章)に着目して各福音書の言語を比較し、特にヨハネ伝と共観福音書の間に顕著な言語的相違が見られることを示します。結論部となる第五章では、ま ず、この言語的相違が写字生の改変や単独の翻訳者の言語変化によるものである可能性は低く、複数の翻訳者が関わったことによるものである可能性が高いこと を論じ、その後、ヨハネ伝の翻訳者と共観福音書の翻訳者は異なっていた可能性が高いこと、両者には言語だけでなく翻訳態度にも大きな隔たりが認められるこ となどを結論として主張します。
 簡単ではございますが、以上が概要です。本書に先生方のご研究に資するところがわずかでもございましたら望外の喜びです。なお、本書は、2003年11月に大阪大学大学院言語文化研究科に提出した博士論文に基づくものです。


新刊紹介(2)

2006年4月18日 (火)

Yoko Iyeiri (ed.), Aspects of English Negation (Yushodo Press & John Benjamins, 2005年12月刊行, xi + 239 pp.)

家入葉子(京都大学)

 昨年12月に、雄松堂とJohn Benjaminsの共同出版でAspects of English Negationを上梓いたしました。ISBNが2つついていますので、雄松堂からは和書として、John Benjaminsからは洋書としての取り扱いになります。
  本論文集は、前半の Part I: Aspects of Negation in the History of English と後半の Part II: Aspects of Negation in Present-day English から成り、両者は相互に関連性をもっています。たとえば後半では、現代イギリス英語の地方言やアフリカ系アメリカ人の英語における多重否定 (multiple negation)の問題を扱いますが、多重否定は英語の歴史的発達においても重要なテーマとなっています。また英語の否定構文の文法化も前半部分と後半 部分に共通するテーマとなっています。否定構文の歴史的な発達と現代英語における否定構文の諸相との関連性・連続性を示すことは、本論文集の狙いの一つで もあります。以下に、収録の論文のリストを掲載させていただきました。

Part I: "Negative Constructions in Old English: The Question of Cynewulf's Authorship" (Jun Terasawa), "Variable Features of Negative Elements in Old English Psalter Glosses" (Michiko Ogura), "On Grammaticalization of Negative Adverbs, with Special Reference to Jespersen's Cycle Recast" (OHKADO Masayuki), "'I not say' Once Again: A Study of the Early History of the 'not + finite verb' Type in English" (Yoko Iyeiri), "Decline of Multiple Negation Revisited" (Hideo Nishimura), "A History of the Negative Interrogative do in Seventeenth- to Nineteenth-Century Diaries and Correspondence" (Fujio Nakamura)

Part II: "Negative Concord in British English Dialects" (Lieselotte Anderwald), "No, nay, never: Negation in Tyneside English" (Joan C. Beal & Karen P. Corrigan), "A Corpus-based Study of the haven't NP Pattern in American English" (Naohiro Takizawa), "Negation in African American Vernacular English" (Darin Howe), "Subjective Meanings of Except-linkage in Present-day English in Comparison with Including" (Mitsumi Uchida)


新刊紹介(3)

2006年5月 3日 (水)

Keiko Hamaguchi, Chaucer and Women (英宝社、2005年11月刊行、xii +168pp.)

濱口惠子 (同志社大学嘱託講師、京都大学非常勤講師、大阪産業大学非常勤講師)

 本書は過去に雑誌や本に掲載した英語の論文集である。構成は8章からなり、I から IV はチョーサーのファブリオを主に、V はThe Franklin's Tale を、VI はThe Book of Duchess について、VII はチョーサーの時代の女性の社会的地位について、VIIIはシェイクスピアのTroilus and Cressida について論じたものである。
 各章ごとに概略を述べてみたい。 I "For Hoolynesse or for Dotage": Januarie's Spiritual Blindness in The Merchant's Tale は、key words "Hoolynesse or Dotage" の語に含まれる様々な意味合いが、ジャニュアリの結婚観の建て前と本音を効果的にだしていくかを研究。 II "Debt" and the Wife as a Verbal Exchanger in The Shipman's Tale は "debt" の「社会上の恩義」「夫婦の性的義務の負債」「金銭上の負債」の意味を利用した言葉遊びを駆使しての女性の商品化および、それを逆手にとった女性の反応や 抵抗を研究。 III The Adoption of Conventions in "Alysoun" in the Harley Lyrics 2253、f. 63 and in The Miller's Tale では The Miller's Tale の Alisoun と、Absolon の求愛における常套描写のパロデイは "Harley Lyric Alisoun" からヒントをえたのではないかと提示。IV Medieval Antifeminism and Women in Chaucer's Fabliaux は 類話 fabliaux の antifeminism の伝統に対して、チョーサーは、女性を悪の権化というよりもむしろ魅力的に描写し、男性が苦境に陥るのは、女性のせいというよりも、むしろ男性自身にその 要素があるという設定にかえているという論。V In Defense of Dorigen: Dorigen's Complaint in The Franklin's Tale では、無視されがちであったDorigen's Complaintの箇所を見直すことにより、この作品を女性の立場、とくにDorigenの立場からの読みなおしを試みた。VI The Book of the Duchess as ConsolatioThe Book of Duchess Consolatio genre の研究からはずしたMeansに異論を唱え、この作品がConsolatio genre の特徴のパターンを踏襲していることを検証。The Black Knightは therapist の役割をになう narrator との対話に誘導され、自分の心のなかに永遠に生きる妻、天上の真の みちびき手、Blanche に慰められる。 VII Social Position of Women in Chaucer's England では、14世紀後期に英国を襲った黒死病の影響で男性労働人口が減少し、それを補うべく女性の経済活動が活発になったと論じる。VIII "I wish'd myself a man" (III.ii.126): Shakespeare's Cressida from a Feminist Perspectiveでは、Cressidaのまわりの世界がいかに市場での商業的価値観で動いているか、いかに彼女が男たちの売買の取り引きのなかで 交換される商品として扱われているかをCressidaの視点から読む。
 本書で扱うChaucerの女性達の大半はファブリオの女性やDorigenなど、男性間の交換物や商品として扱われている。その傾向はシェイクスピアのTroilus and Cressida の商業的世界では一層強められている。本書にシェイクスピアの作品についての論文を加えることで、中世後期とイギリスのルネッサンスでの女性の取り扱いの継続性を垣間見ることが出来る。
 Chaucer 研究の比較的初期の拙論を集録のため、今読み返すと修正したい箇所が多々ある。しかし若い頃の自分がチョーサーをどのように読んだか、反省を込めて振り返 りたいと思って、あえて手を加えなかった。読者のご批判を糧に初心に戻ったつもりで新たなる飛躍を密かに願っている。


新刊紹介(4)

2006年6月 6日 (火)

Hideki Watanabe, Metaphorical and Formulaic Expressions in Old English Reconsidered: with Special Reference to Poetic Compounds and their Modern English Counterparts (Tokyo: Eihosha, 2005年刊行, 266 pp.)

渡辺秀樹(大阪大学)

 拙著は千葉大学大学院 社会文化科学研究科に2003年に提出、翌年博士号を得た論文を基にし、その最終章と文献目録の日本語部分を省いて書き直 したものです。大学院時代より古英詩の文体研究を続けてきましたが、相関構文や文頭副詞の用法といった統語法の研究から、定型句や比喩表現へと興味がしだ いに移り、特定の統語形式や定型表現・比喩表現をdiscourseの観点から考察して、具体的な詩本文の特定箇所の読みの提案や英語の歴史的文体の特徴 の検証へ結びつけようと努力しました。
 Introductionを除き全部で9章から成り、扱う題目は様々ですが、語の多義と比喩義の関係、詩 的複合語や定型表現の歴史的系譜を共通テーマとして各章を関連付け、昨今では時代遅れとして無視されている古い校訂版と19世紀の辞書に見られる先見の明 のある記述の発掘を心掛けました。英語歴史的文体論、古英詩のテキスト解釈、辞書学を合体させた内容です。
 各章は単独でこの20年に発表した論文を数度に渡って書き直したものですが、著者として自信があるものは次の3章で、Beowulf のハンドブックで言及されたり、博士論文の審査官の評価も高かった部分です。(Chapter I: Final Words on Beowulf 1020b: brand Healfdenes; Chapter V: Some Neglected Aspects of Meaning of the Old English Noun-Verb Combination egesa stod; Chapter VI: The Lineage and Variations of the Biblical Phrase while the world standeth
 本書には、当英語史研究会で1度口頭発表、会報研究ノートで2度発表した“red gold” という連結の意味(「純金」か「赤っぽい金」か)についての章と“nacod nid draca” (Beowulf 2273) の解釈についての章も入れたかったのですが、英文作成が間に合わず、他の機会に発表したいと考えています。古英語類語辞典については書評論文を2度書き、 中世英語英文学会でシンポジウムも行いましたので、その利用方法や語の区分の問題点については、出来うる限り詳しくまとめなおしました(Chapter VIII)。OED に記載された古英語由来の語のステイタスの問題や詩的複合語の現代英語での該当形については、Tennysonなどのアングロ・サクソン語使用の懐古癖も含め、大幅に書き下ろしました(Chapter IX)。
  内容と文章について満足できない形で入れてしまった章も3つありますが、西洋の学者の発言を紹介するだけであったり、または他人の論考の主要部を借用して 繋ぎ合わせるといったことはせず、自分でテキストを何度も読んで考えた結果を示したことは自負するところです。外国語の中世作品の研究とは、時空とも二重 に離れた世界を研究することですから、現代英語を普段教えている者がそれを続けるには、それなりの覚悟と続けられる環境作りも必要です。私の場合は、集中 的に古英語関係の論文を書いた1993~2003の10年間には、院生で中世英語を専攻するものが3名在籍していたこと、学生時代からの友人と古英語作品 の合宿研究会を7年間続けたこと、大阪の月1回の中英語の読書会、それがなくなった後で始まった別の古英語訳聖書の読書会が幸いし、中世英語に不断に接し ておりました。これらの研究会や読書会で作品を一緒に読んだ方のinsightにも大きな恩恵を受けています。


新刊紹介(5)

2006年6月 8日 (木)

C. S. デイヴィス & J. レヴィット(著)/三輪伸春(監訳)福元広二・松元浩一(共訳)『英語史でわかるイギリスの地名―地名で楽しむイギリスの歴史、文化、言語―』(英光社、2005年6月刊行、249頁.)

福元広二(鳥取大学)

 イギリスの地名に関する本を翻訳し英光社より出版いたしました。この場をお借りして紹介させていただきます。
 本書は、ブリテン島に渡っ てきたケルト人、ローマ人、アングロ・サクソン人、デーン人、ノルマン人など多様な民族が英語の地名にどのような影響を及ぼしたのかを具体的に例を挙げな がら解説したものです。単なる地名の列挙というわけではなく、地名の語源と由来を、イギリスの政治・経済・文化・歴史という幅広い視点から捉えようとして います。また、巻末には地名索引として、本書に出てくるすべての地名の発音記号と日本語表記を付けてあります。

目次
まえがき
英語史とイギリスの地名(訳者解説)
第1章    序
第2章    最古の地名
第3章    アングロ・サクソン人の到来
第4章    居住地の拡大
第5章    宗教と迷信
第6章    ヴァイキングの襲来
第7章    ノルマン人のイギリス征服とその後
第8章    めずらしい地名
第9章    地名と英語史
地名参考文献
地名索引


新刊紹介(6)

2006年6月13日 (火)

田島松二(編)『ことばの楽しみ―東西の文化を越えて』(南雲堂、2006年3月刊、432頁)

田島松二(九州大学名誉教授)

 本書は、ことばを学び、教え、研究してきた方々に、ご自分の専門分野に関する論文や随想を寄稿していただいたものを、編者の責任で一書にまとめた ものである。36名からなる執筆者の大半は英語・英米文学者であるが、日本文学、中国文学、経済学の専門家も含まれている。年齢構成も、それぞれの分野で わが国を代表する方々から、研究生活を始めて間もない新進まで多彩である。
 内容は、言語史的には古・中英語から現代英米語まで、文学史的には中世英文学から現代英米文学までの多様な分野、さらには芭蕉、漱石、芥川といった日本文学まで、と広範囲にわたっている。
  いずれ劣らぬ力作揃いであるが、とりわけ、エマソン、ソローの自然観と中国思想の関係を扱った中国文学者の論文、「エコノミー」という英語の意味変遷を 辿った経済学者の論文、芭蕉(「閑さや岩にしみ入る蝉の声」)を論じた英文学者の遺稿等々、示唆に富む刺激的な論考や随想を数多く収録できたことを編者と してはひそかに喜んでいる。


新刊紹介(7)

2006年10月23日 (月)

Keiko Hamaguchi, Non-European Women in Chaucer: A Postcolonial Study (Peter Lang, 2006 年 6月刊行,  ix + 194 pp.)

濱口惠子 (同志社大学嘱託講師、京都大学非常勤講師、大阪産業大学非常勤講師)

 「チョーサーの作品のなかで、他者、つまり、非西洋の異教徒の女性はどのように表象されているのだろうか」 というのが、西洋に位置する日本人女性という立場から出発した疑問でした。また、非西洋の視点からの方法を模索しているうちに出会ったのがポストコロニア ル研究でした。
 本書は、チョーサーの作品における非西洋の女性についてポストコロニアル研究を用いて執筆した論文を一冊に纏めたもので、Studies in the Age of ChaucerThe Chaucer Review などに発表した論文も含んでおります。7章からなり、各章のタイトルは次のとおりです。

Chapter One: Introduction
Chapter Two: The resistance of the Syrian mother-in-law in the Man of the Law's Tale
Chapter Three: Canacee's problematic marriage in the Squire's Tale
Chapter Four: The colonization of Dido
  4.1. Dido's accusation of Virgil and Aeneas in the House of Fame
  4.2. Colonizing Dido in the Legend of Good Women
Chapter Five: Domesticating Amazons in the Knight's Tale
Chapter Six: Transgressing the borderline of gender: Zenobia in the Monk's Tale


新刊紹介(8)

2007年2月 6日 (火)

佐藤 勝(著)『英語不定詞の通時的研究—英語聖書四福音書を言語資料として—』(英宝社、2006年9月刊、xvi+184頁)

佐藤 勝(日本大学)

 本書は、これまでに発表してきた、英語聖書四福音書を言語資料とした英語不定詞の通時的研究をまとめ直したものである。フィロロジー的・実証的研究方法によるものである。
 本書はまず、第一部「各時代の不定詞」、第二部「通時的研究」、第三部「英語聖書四福音書に関する研究」、補部「各時代の不定詞の提示」の全四部より構成されている。
  第一部「各時代の不定詞」は、第1章「古英語の不定詞」、第2章「中英語の不定詞」、第3章「近代英語の不定詞」、第4章「現代英語の不定詞」、第5章 「第1章−第4章・表のまとめ」の全5章より構成されており、その内容は、主に各時代における英語聖書四福音書の不定詞の調査・研究を記したものである。 単なる調査結果の列挙ではなく、各章間の簡単な比較、そして考察(実証的・理論的)に資するよう、不定詞の枠組み、例文の提示、表の提示、まとめ方等には 気を配ったつもりである。
 第二部「通時的研究」は、第6章「主語機能の不定詞の通時的研究」、第7章「For NP to V の通時的研究」、第8章「現代英語の「S+V+O+不定詞」における不定詞標識 to の 有無について—歴史的立場からの考察—」、第9章「「S+V+O+不定詞」の発達とその要因について」の全4章より構成されており、その内容は、先行研究 を踏まえた上の、第一部の調査・研究にもとづくさまざまな実証的な通時的考察を記したものである。言語資料を聖書とするため可能となる考察展開、そして通 時的研究と歴史との深い関係を感じていただければ著者の喜びである。
 第三部「英語聖書四福音書に関する研究」は、第10章「英語の通時的研究に おける英語聖書—その高い有用性と有効活用のための工夫—」、第11章「古英語聖書四福音書の2つの校訂本(Liuzza版とBright版)の比較—英 語の通時的研究者の立場からの比較・考察—」、第12章「流布版『欽定英訳聖書』四福音書の言語資料としての信頼性について」の全3章より構成されてお り、その内容は、言語資料である英語聖書四福音書及びその校訂本に関する考察を記したものである。英語聖書四福音書を言語資料とする場合、英語の通時的研 究者が知っておく必要のある最小限のことが伝わればと思う。
 補部「各時代の不定詞の提示」は、第1章−第4章の不定詞すべての所在を記したもの である。この種の掲載は既刊の同類学術書では一般的ではないが、本書では敢えて勇気をもって掲載した。僭越ながら各研究者の研究に役立てば幸いである。な お、丹念な推敲を重ねたつもりであるが、誤植を含め不適切な箇所があるかもしれない。著者の不徳の致すところであり、ご容赦いただきたい。
 浅学 の身にもかかわらずこの度本書を出版するに至ったのは、著者が研究の節目を迎えたからである。今後研究対象を拡大していくにあたり、これまでの研究をまと め直す必要性を感じたのである。また、本書を世に出すことにより、僭越ではあるが、少しでも他の研究者の役に立てるのではとの思い、そして後進の研究者 が、本研究分野に、コーパス英語学や理論系英語学とは違った価値を見出し、興味をいだいてくれればとの思いもある。


新刊紹介(9)

2007年4月16日 (月)

家入葉子『ベーシック英語史』(ひつじ書房、2007年3月刊行、Viii + 124頁)

家入葉子(京都大学)

 英語史の授業を20年間担当したら自分でも英語史の執筆に着手したいと考えていましたが、予定より早く、その機会をいただきました。2005年の 夏に執筆を開始し、本年3月にようやく刊行に至りました。本書は、タイトルが示すように、入門者向けの英語史です。情報量を抑え、読み物として楽しんでい ただける英語史を目指しています。15章の構成は授業を意識したものですが、英語のストーリーとして通読していただいても、著者としてうれしく思います。 なお、15の章立ては、以下のようになっております。

1. インド・ヨーロッパ語としての英語
2. 英語の外面史と借入語
3. 語彙の歴史
4. 文字・綴り字と発音
5. 名詞の発達
6. 人称代名詞の発達
7. 指示代名詞と関係代名詞
8. 語形変化の衰退がもたらしたもの
9. 主節と従属節
10. 動詞の発達
11. 非人称動詞と過去現在動詞
12. beと haveおよび分詞
13. 不定詞と動名詞
14. 否定構文と助動詞doの発達
15. 言語の揺れ


新刊紹介(10)

2008年1月 4日 (金)

中尾佳行、小野祥子、白井菜穂子、野地 薫、菅野正彦(編)『テクストの言語と読み―池上惠子教授記念論文集』(Text, Language and Interpretation: Essays in Honour of Keiko Ikegami )(英宝社、2007年、vii + 497頁)

中尾佳行(広島大学)

 本書は2004年に成城大学短期大学部を定年退職された池上恵子教授と親交のある研究者から寄せられた論文集である。寄稿者は国内の同窓、師弟、友人の枠を超えて遠く海外に及んでいる。
 「はしがき」で、池上惠子先生の人柄について次のように記されている。

先生は問題の核心をずばりと指摘されるがその根底には何時も解決という暖かさが 用意されている。困難な問題に対して厳しい意見を吐かれると同時に、必ず対案と方向性が示される。学者としての誠実さと、教育者としての優しさが見事に溶 けあっている。ハーヴァード式早期英語教育から内外の著名な学者との出会いに至るまでの過程が、先生の英語学習のドラマであり、いかにして学問への情熱と 人間味豊かな感性を身につけられたかが窺われる。」(p. iii)

 国内から31名、海外から5名が寄稿している。Jane Roberts (University of London), Michael Sargent (The City University of New York), Clifford Davidson (Western Michigan University), Geoffrey Leech (Lancaster University), Jan Svartvik (Lund University)の各教授、そして国内では菅野正彦教授、池上忠弘教授、池上 昌教授、久保内端郎教授、吉野利弘教授など。熟練研究者から新進気鋭 の若手研究者まで寄稿し、研究分野も古英語、中英語、近代英語、現代英語と広範囲に亘り、テーマもテクスト批評、英語史研究から、テクスト受容史、比較文 学、英語学史に及んでいる。
 このように、論文は多岐に亘るが、共通する一つの関心はテクストへのこだわりであるように思える。テクストの歴史的 価値の再建、テクストに対する語学的・文学的な検証である。即ち、テクストへの分析的な検討と読みである。池上惠子先生と親交の深い海外の研究者の論文か ら、語学・文学に関する論文が時代順に並べられ、最後に比較文学、英語学史に関する論文が置かれている。(I テクストの言語と読み、II テクストの言語と読み―古英語の場合、III テクストの言語と読み―初期中英語の場合、IV テクストの言語と読み―後期中英語の場合、V テクストの言語と読み―後期中英語~初期近代英語の場合、IV テクストの言語と読み―比較文化・比較文学、VII テクストの言語と読み―フィロロジーの課題と展望)
 池上先生のご関心は、中世英文学談話会での「ME版 Barlaam and JosaphatEveryman の関連について」(1979)の研究発表に始まり、20年後に Barlaam and Josaphat: A Transcription of MS Egerton 876 with Notes, Glossary, and Comparative Study of the Middle English and Japanese Versions (AMS Press, 1999) として結実し、後の Ancrene Wisse の共同研究にも窺われる。本論文集のタイトルを「テクストの言語と読み」とした所以である。
  巻末の「池上惠子教授略歴と研究業績一覧」(pp. 486-94)は、先生がどのような英語の師に出会い(宮部菊男、齊藤 勇、小津次郎教授など国内外で著名な学者を師としたこと)、またどのようにして研 究課題を見つけ、深めていったかを、まるでドラマのよう物語っている。
 本書は、熟練の研究者、中堅で中締めの研究者、そして新進気鋭の若手研究者に有意義な情報と示唆を与えるものと期待される。


新刊紹介(11)

2008年5月25日 (日)

S. A. J. Bradley (trans. & ed.), N. F. S. Grundtvig, A Life Recalled: An Anthology of Biographical Source-Texts. Grundtvig in English Series, I. (Aarhus University Press, 2008, 597pp.)

浅香佳子 (大阪国際大)

 デンマークのオーフス(Aarhus)大学の Centre for Grundtvig Studies より、N. F. S. Grundtvig, A Life Recalled が2008年の3月に出版されました。総ページ数597のハードカバー版です。本書は Grundtvig in English Series の第1巻で、デンマーク語からの英訳および編集は英国 University of York, Department of English and Related Literatureの名誉教授 S. A. J. Bradley によります。Bradley 教授は Anglo-Saxon Poetry (J. M. Dent, 1982)でよく知られていますが、Centre for Grundtvig Studies において、Grundtvig の著書の英訳プロジェクトの編集主幹として精力的に取り組まれました。
 N. F. S. Grundtvig (1783-1872)は、古英詩 Beowulf のデンマーク語訳 Bjowulfs Drape (1820), Beowulfes Beorh (1861)でよく知られているところです。N. F. S. Grundtvig, A Life Recalled は Preliminaries, Part one―Grundtvig's memoirs, Part two―Memoirs of Grundtvig, Part three―Indexの4部から構成されています。Preliminaries には Grundtvig の生涯と著作が年代順に紹介されていますが、それによりますと、Grundtvig がコペンハーゲン大学を卒業して間もなく、Egeløkke で教師をしていた23歳の時に、すでに Edda についてのエッセイ Brief Comment on the Songs of the Edda (Lidt om Sangene i Edda, 1806)を、その2年後の1808年には北欧神話についての概観、Mythology of the North or Overview of the Eddic Lore (Nordens Mytologi eller Udsigt over Eddalæren ) を含む多くの著作を公表していることが分かります。
 Preliminaries から、彼の著作が神学、教育、政治、文学など非常に広い分野にわたるものであること、そしてそれらの著作がデンマーク、ノルウェー、フィンランド、ス ウェーデン、アイスランド北欧諸国の国民的特性への信条に支えられたものであることがよく理解されます。続く Part one―Grundtvig's memoirsでは、'Autobiographical sketch' で始まり、以下 'Child and early youth', 'Student years in Copenhagen', 'Egelokke (1805-1808)', 'Denmark  (c.1807-1814)', 'Probational sermon and Christian breakthrough', 'Two glimpses from 1812-1814', 'The "seven lean years" 1813-1820', '1824―Retrospect and new ferment', …が年代順に記述され、'Obsequies 1872'で終わっています。Part three―Indexでは本書に使用されている語彙が、250ページ余にわたってアルファベット順に詳細に説明されています。
 本書全体から N. F. S. Grundtvig の国民的な情熱が直に感じられ、Beowulf に対する研究を刺激してくれる一冊だと思いました。


新刊紹介(12)

2008年10月 6日 (月)

Liliana Sikorska (ed.), Medievalisms: The Poetics of Literary Re-Reading. Studies in English Medieval Language and Literature, 21 (Peter Lang, 2008, 229pp.)

濱口惠子(同志社大学嘱託講師)

 本書は、15人の著書による Medievalism についての英語の論文集です。中世に続く後世の時代が中世の文学、文化、歴史をどのように取り込んでいるか、Medievalism について多様な側面とアプローチが見られます。 どのように中世の作品のテーマやモチーフが後世の作品に幾度も浮上し、書き直され、修正されながら、現代に綿々と生き続けているか、あらためて気づかせて くれます。ぜひ一読をお勧めしたいと思います。Introductionを含めて16章立てで、各論文の著者と論題は、以下のようになっております。

1. Introduction
2. Marcin Cieniuch, "Layers of fictionality. Reading Victorian medievalism in A. S. Byatt's Possession"
3. Lindsay Clarke, "The alchemy of imagination"
4. Anna Czarnowns, "Artificial discourse of national belonging: the case of Anglo-Saxonism"
5. Jacek Fabiszak, "The gender of the Vice: from the Medieval she-vice to the Renaissance she-villain in Shakespeare's Macbeth"
6. Keiko Hamaguchi, "Rewriting Arthurian legends in Soseki: 'Kairoko' and Malory
7. Lukasz Hudomiet, "The portrayal of (d)evil in Irish Murdoch's The Flight from the Enchanter, A Fairly Honourable Defeat and The Time of the Angels"
8. Dagmara Krzyzaniak, "Medieval dramatic tradition revisited in Peter Barnes' Red noses"
9. Joanna Maciulewicz, "Translations and imitations of medieval texts in Neoclassicism: Chaucer as a 'rough diamond' that 'must first be polished ere he shines'"
10. Malgorzata Milczarek, "The witch in English literature: negotiation of power and gender politics"
11. Hans Sauer, "Teaching the English Middle Ages on film--possibilities, problems, perspectives"
12. Agnieszka Setecka, "Alfred Tennyson's 'Vivien' and 'Guinevere': sensation stories in medieval setting"
13. Liliana Sikorska, "The alchemy of love: Representing desire in a medievalist (con)text. Lindsay Clarke's The Chymical Wedding"
14. Anna Warmuz, "Medieval bestiaries and modern beasts--the making of beast fables in contemporary literature"
15. Andrzej Wicher, "Some Boethian and ecclesiological themes in C. S. Lewis's Screwtape Letters"
16. Wladyslaw Witalisz, "Blind Hary's The Wallace and Mel Gibson's Braveheart: what do medieval romance and Hollywood film have in common?"


新刊紹介(13)

2008年10月26日 (日)

寺澤盾 『英語の歴史――過去から未来への物語』 (中公新書、2008年、viii + 241頁)

家入葉子(京都大学)

 中公新書から、寺澤盾氏の『英語の歴史――過去から未来への物語』が出版されました。氏が『朝日ウィークリー』に連載した「英語を旅する――過去 から未来へ」をもとに、一冊の著書としてまとめたものです。淡々とした記述が続いていく中で、ときどき著者の人間味溢れる表情が覗いていて、とても興味深 く読むことができました。また、現代英語や未来の英語についての記述にかなりのスペースが当てられているのも特徴的です。欧米では、このところ次々に新し い英語史が出版されています。日本でも、このように現代英語との連続性という視点を取り入れながら英語史をもう一度考える時が来ているように感じます。
 目次は以下のようになっています。

第1章 国際語としての英語
第2章 英語のルーツ
第3章 語彙の増大
    I. 英語史の概要
    II. 古英語期――派生と複合による新語形成
    III. 中英語期――大量のフランス語流入
    IV. 近代英語期――国際化した借用語
第4章 綴り字・発音・文法の変化
    I. 綴り字と発音のずれ
    II. 文法――人称代名詞と助動詞の発達
第5章 英語の拡張
第6章 現代の英語
    I. 科学技術の進歩
    II. 環境問題
    III. 差別撤廃運動
    IV. 性差とフェミニズム
終章 英語の未来


新刊紹介(14)

2009年10月 6日 (火)

 衛藤安治先生より、新刊の『Beowulfとその周辺―忍足欣四郎先生追悼論文集』の紹介をかねて、以下のように、目次をお送りいただきました。

唐澤一友 編 『Beowulfとその周辺―忍足欣四郎先生追悼論文集』 (春風社、2009) 8,000円

目次

はじめに―唐澤一友

弔辞―寺澤芳雄
弔辞―菊池清明

第1部 Beowulf と向き合って半世紀 忍足欣四郎先生 Beowulf
1-1: Some Problems in the Interpretation of Beowulf
1-2: Beowulf の行間を読む
1-3: Beowulf の邦訳について
1-4: Beowulf におけるgræg について
1-5: Beowulf は近親相姦の罪を犯したか?
1-6: 中世英文学小史―中世前期(450-1100)

第2部 Beowulf の解釈
2-1: Two Cruces in Beowulf ―Shigeru Ono
2-2: Why Did Hrunting Fail Beowulf ?: An Observation from the  Etymological Viewpoint ―Shoichi Watanabe
2-3: On Women’s Names Unidentified in Beowulf and Their  Contrariety ―Akinori Yoshimi
2-4: Beowulf を読み直す―動詞weorðian の意味をめぐって ―衛藤安治
2-5: Beowulf 2998行 hyldo to wedde について ―石黒太郎
2-6: Agony of Agnostos Theos: Descriptions of Grende and Nature  Genius ―Tsukusu Ito
2-7: egesan ne gymeðBeowulf 1757b)の解釈をめぐって ―唐澤一友
2-8: On the Interpretation of Nas da on hlytme in Beowulf ―Jumpei Funai
2-9: On the Social Status of the Thief in Beowulf ―Naotoshi Furuta
2-10: Beowulf l. 2181 maste crafteの解釈をめぐって ―福田一貴
2-11: Beowulf における三つの葬式―英雄の死と名声 ―原田英子

第3部 Beowulf の言語
3-1: Old English Palatalization: Theory and Practice on the Material  from Beowulf ―Tsunenori Karibe
3-2: A Non-metrical Approach to the Hypermetric Verses in  Beowulf ―Michiko Ogura
3-3: Beowulf における3音節以下半行について ―寺澤盾
3-4: 生きている音象徴―Beowulf に見られる語頭子音語群sc- ―織田哲司
3-5: The Use of Variation in Beowulf ―Toshiyuki Yamagata
3-6: 平和について考える―Beowulf Eleneにおけるpeace-weaver の扱いをめぐって ―下永裕基
3-7: Beowulf における wyrd の用法について ―佐藤修一
3-8: Beowulf における王とその複合語 ―三木泰弘
3-9: Beowulf におけるrepetitive word pairs ―貝塚泰幸

第4部 Beowulf 研究史
4-1: 日本の Beowulf 研究史80年を振り返る ―渡辺秀樹
4-2: Beowulf の本文をめぐる問題点と諸校訂本について ―網代敦
4-3: Some Suggestions for Improving the Glossary of the Electronic  Beowulf ―Ryoichi Koyama

第5部 Beowulf の周辺 中世英語英文学論
5-1: 中世英語・英文学研究の今日的意義―寺澤芳雄
5-2: “xv `na´sum” ― 佐藤修二
5-3: Widsith詩人が思い描くゲルマーニア―池上忠弘
5-4: More Cases for Variation in Old English Poetry ―Yoshihiro Yoshino
5-5: Matthew 25: 14-30 in Old English? The West Saxon Gospels and  Alfric ―Hiroshi Ogawa
5-6: ランベス詩篇の統語注解 ―山内一芳
5-7: Remnants of Old English Words in Seinte Margarete, MS Bodley  34 ―Keiko Ikegami
5-8: ヴァリアントが語る英語史物語 ―久保内端郎
5-9: 『ガウェイン卿と緑の騎士』におけるacole and kyseについて―clip and kysseとその異形 ―菊池清明
5-10: 『ガウェイン卿と緑の騎士』における季節の移り変わりの描写― 歴史的現在からみえるガウェイン卿の心情 ―松崎武志
5-11: Chaucerの真面目さ ―齋藤勇
5-12: A Tale of the Absurd by Chaucer’s Knight ―Setsuko Haruta
5-13: Sir Thomas Maloryの作品における政治地図 ―青木美奈

忍足欣四郎先生略歴および業績一覧

索引

寄稿者一覧


新刊紹介(15)

2011年4月29日 (金)

Tetsuya Oda & Hiroyuki Eto, eds. 2010. Multiple Perspectives on English Philology and History of Linguistics: A Festschrift for Shoichi Watanabe on His 80th Birthday. (Linguistic Insights.) Peter Lang.

衛藤安治(福島大学)

 渡部昇一上智大名誉教授の傘寿のお祝いを記念する論文集です。先生の「忠実なる使徒」を自称する30代から40代のお弟子さんたちが中心に寄稿し ています。木は実によって知られる、と言います。渡部教授の学問的スケールの大きさをうかがい知ることのできる文献でもあります。



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